西からの出張の帰り、もうすぐで品川駅に着くタイミング。荷物を抱え、デッキで本を読む中年男性がいた。
もうホームも見えつつあるのに、目線は本から動かない。ちょっと邪魔だな、って失礼なことを考えはじめたとき、左片手で読んでいた文庫本をパタンと閉じて、無造作にスーツの前ポケットに押し込んで降りていく。
あぁ、そういうのはだいぶん前にやらなくなってしまったと感慨深くなる。いや、その男性はもしかしなくても自分より年上で、ずっとそうしてきたんだろうに。
出かけるとき、チノパンに財布と文庫を押し込んでいた時分が懐かしい。お金はないのに本は読みたいから、古本屋を巡って好きな作家の作品を探していた。
旅に出るときも、目的の4分の1くらいは本が読みたかったんじゃないかな。普段と違う場所、違う景色の中で初めて出会う物語に没入したかった。
今の本との距離を知ったら、あのときの自分はどう思うだろうか。
